トイレの話
日本でも最近は西洋式のトイレが行き渡り、かなり田舎に行っても見かけるようになりましたが、今から30年ほども前の日本の公衆トイレ事情といえば酷いもので、その記憶が抜けきれない神経質な私は、今でも公衆トイレが苦手です。
若い頃貿易商社に勤めていた私は、ある日ドイツからのお客さんを案内して箱根へ行きました。電車を降りたところでトイレに行きたいと言われ、「あるのはあそこの和式だけ」と木造の古びた小屋を指差すと、「我慢する」と言われ、日本での滞在中トイレでいやな思いをしているのだと知りました。その頃は私も外出先では極力トイレに行かないようにしていました。
それでは「本場」のトイレ事情は・・・、実は1976年に初めてヨーロッパに行って、西洋のトイレにも様々あるということをつくづく思い知らされました。
また次女が中学生の時、初めて連れて行ったパリで、「お母さん、さすがに自由の国フランスだね、トイレの水洗の仕掛けが色々ある・・・」と感心していた姿がとても印象的でおかしかったのですが、日本中どこでも、ほとんど同じ形をしている「日本の洋式トイレ」に較べ、やはり歴史があるというか、自由というか、初めて見れば驚くものや使い方が分からない場合もままあるということで、私の知っているヨーロッパのトイレについて、若いころからの個人旅行、仕事で団体を引率しての旅行などの経験を踏まえて少し書いてみようと考えました。
本当は「世界のトイレ」と大きく出たいところでしたが、西ヨーロッパ以外、特に発展途上国と呼ばれる国々は敬遠しているので、あまり行ったことがありません。その理由の第一がトイレ。もうとても発展途上とは言えない中国のトイレの悲惨さについては有名で、オリンピックがそういう意味で興味津々ですが、コンピューター大国と言われるインドもトイレはとても一流先進国とは言えず、書こうと思っただけでも気分が悪くなってしまいました。
それで比較的行くことが多く安心でもある「西洋」のトイレを中心に書いていくことにしました。
ただここに書くのはあくまでも私自身の個人的な体験や、個人的な伝聞に基づいたもので、必ずその国全般について当てはまるというものではありません。中には偏見と怒られるものもあると思います。高速道路のサービスエリアには最先端のトイレが見られる日本ででも、場所によっては酷いところもあります。改善途上のものもありますし、その場所の所有者の意向なども反映されているので、同じ観光地でも場所によって幸・不幸?も変わってきます。
私の知り合いの中には一度だけ行った国についても「あそこの国はこうなのよ」と断定的に人に話している人がありますが、必ず違った面があることも心に留めて「私が知っている範囲では」と付け加えたいものです。
という訳で、ヨーロッパだからといって、どこのトイレも「現在の」日本の洋式トイレのように真っ白で清潔、とは限らないのは当然です。
昔読んだ作家・遠藤周作氏のリヨン留学時のエッセイの中で、ひときわ強烈な印象だったのが田舎のトイレの話でした。
彼は留学中の寄宿先が相当な田舎だったのでしょう、羊の番までやらされ、エッセイにはヘマをして羊に逃げられ子供にバカにされる場面が出てきますが、その家のことでしょうか、穴の両側の土に板を二枚置いただけのトイレに遭遇して仰天する場面が描かれています。
終戦直後に海外留学をさせられるような家庭ですから、彼はお坊ちゃんで、日本でも汚いトイレなどにはご縁の無い生活をしていたのではないでしょうか。
それを読んだ時、へぇ〜、フランスにもそんなトイレを使っている家があるんだ、と妙に関心したのを覚えています。
私が初めて行ったヨーロッパはフランスでしたが、トイレで印象的だったのは同じ時に行ったギリシャでした。
現地の知人に連れられて相当高級なレストランへ行った時、トイレに行きました。そこにあったのが、日本でも最近はほとんど見かけなくなった、陶器の水タンクが天井近くに設置されていて、鎖の先に白い陶器の重りのついたものを引っ張って水を出す仕掛けでした。
別に野蛮でも何でもなかったのですが水の入っている陶器のタンクが不安定そうに見え、鎖を引くとタンクごと落ちてきそうで怖かったのを覚えています。
私が日本で初めて洋式のトイレに遭遇したのは1955年くらいでしょうか、旅行会社に勤めていた父の会社のイタリア人社長が横浜で開いていた、イタリアン・レストランへ行った時のことでした。
高級レストランのトイレでしたから和式のトイレに較べ非常に広く、明るく、清潔に感じましたが、初めてのことで、その明るさが怖かったのを覚えています。
何しろ私の遠い親戚の中には、廊下から渡り廊下を突き出した先に四畳半ほどの個室があり、灯りは部屋の隅に置かれたロウソク、なんていうトイレもあった時代ですから。
日本に洋式トイレが設置され始めた頃には、トイレの室内には必ず「使い方」を説明した紙が貼ってありました。
でも、熟年になってくると説明書なんか読むより自分のカンが頼り、洋式トイレに関する珍談も昔は沢山ありました。
大阪万博は1970年でしたか、外国人客も多かったので会場には洋式トイレも沢山設置されましたが、フタの上に本物の「巻きグソ」が乗っていた、なんて信じられない話もありました。
私自身の体験としては万博の少し後、グアムへ行った時の話が傑作でした。
連れが空港でトイレに行ったのですが、戻ってきてもおかしくて笑って声が出ない。カギも掛けてないトイレがあったので開けてしまったのだそうですが、着物を着たオバアサンが便器の馬蹄形の中フタの上に木のゲタで乗って、そこでしゃがもうと滑りながら格闘していたというのです。
グアムのトイレには使い方の説明書は貼ってありませんものね。グアムへゲタを穿いて、着物で行く人もあった時代でした。
普通私たち観光客が団体旅行中に行く場所には、まあマトモなトイレがありますが、和式と同じような「しゃがむ」トイレをフランスで初めて見たときには、意外な感じがしてちょっと驚きました。
日本でも冬の公衆トイレでは、座ると冷たいので洋式は人気がありませんが、ヨーロッパでも海水浴場やスポーツ施設などでは、汗や海水で濡れた便座に次に座るのはいやなのでしょう、「しゃがむ」式のトイレも結構あります。最近の日本では暖房便座やウォシュレットのついている公衆トイレもありますが、この点では日本が一番進んでいるように感じます。
西洋では訳のわからないものには「トルコ○○」と命名するなんて聞いたことがあり、この「しゃがむ式」トイレもトルコトイレと呼ばれるのだと教えてくれた人がありますが、これはどちらが前なのか、よく訊かれます。
日本の和式トイレは大抵ドアが便座と並行に付いている、またはドアを背にして座るようになっているでしょう。ヨーロッパのトイレは日本で見られる大半の洋式トイレと同じように、大抵ドアに向かって座るように出来ています。これは水のタンクが後ろに付いているという理由もあるのですが、では、しゃがむ式のトルコトイレは、どちらを向いて座るか、これには長い歴史に起因する「作法」があるようです。
ヨーロッパでトイレというものが登場したのは、結構最近のことのようです。それまでは木の陰とか、草むらで用足しをしていたということで、香水は、その臭いを消すために発達したとも言われていますね。ベルサイユ宮殿などトイレは今でも少なく、昭和天皇が訪れた際には特別にトイレを設置したくらいですが、一応の庶民はポットに取ったものを窓から路上へ投げ捨てたりしていたのです。
ペストなどの伝染病が流行ったのも無理ないし、今でも犬の糞に寛容なのもそのせいなのでしょう。
そんな中でトイレは最初はやはり上流階級のもの、王侯貴族や武将のものだったのですが、彼らは敵を警戒して常時緊張した生活を送っていたのですね。ヨーロッパのお城に行くと、王様が寝ていたベッドがあまりに小さくて驚くことがありますが、彼らは「大の字」になって「熟睡」なんてことはほとんど無かったとか、いつでも起きられるように座って寝ていたようです(朝食もそのままの姿勢で寝床で摂っていたようです)。
同じことがトイレにも言えるそうで、ドアに背を向けている間に背後から襲われないように、ドアの方を向いてしゃがんでいたようです。ですから今でも西洋のトイレは全て背中がドアの方向に向かわないようになっているのです。
外国に行くとトイレの数が少ないのも、団体の時には苦労のタネです。
町の広場の公衆トイレが、男女共用でたった一つなんてこともしばしばで、観光時間全部をトイレ待ちに費やした人も沢山ありました。
あるレストランではトイレの個室が食事場所からドア一枚で直接入るようになっていて、しかもそこしか無い、そして一つだけ、ということもありました。その薄い壁には食事のテーブルが接していて、入るには食事をしている人の椅子の後ろをかするように通る、でも食事の後はバスに長く乗るので、食事時間中に順番に必ず行って下さい、ということで、マナーもお上品もあったものではありません。
デパートなどでも、日本のように全階に綺麗なトイレがあるところは皆無、全館で一つか二つが普通、小さな小売店などには全く期待できません。
フランスのルーアンでは、街中のデパートの上階に隠れるようにただ一つあるトイレが、添乗員仲間の秘密情報だったりしています。
バンクーバーの町中を歩いていた時には、一緒だった人がトイレに行きたいと言うので近くにあった商店に飛び込んだことがありました。トイレを貸して、と言ったら何と「ありません」と言われ、走ってホテルまで戻りましたが、買い物もしない人にタダで貸すトイレが無いということで、従業員用はもちろん別にあるのでしょう。
カナディアンロッキーにある有名なホテルも、トイレだけに入ってくる日本人を極度に警戒しています。まあ、高級ホテルなので買い物をする人は少ないけれど、外が寒くしかも他には何も無い場所なので、全員がトイレに並んで壮観、高級ホテルの雰囲気はぶち壊しですから怒るのも無理は無いでしょう。
ポルトガルの地方都市で観光後、バスが停まっている目の前にホテルがあり、殆どの人が入っていきました。トイレを使う人が余りに多いのを見てホテルが怒り、途中から電気を消され、更にその後トイレ自体に鍵を掛けて追い出されたこともありました。
イギリス・コッツウォルズではトイレを借りたホテルがとても雰囲気が良く、何かの時には是非利用したいとパンフレットを貰ったこともありました。このときは緊急事態だったのですが田園地帯で人家も無く、やっと見つけたのがこのホテルでした。パンフレットを後で見るとゴルフやガーデニングを趣味とする人を相手にお上品に営業しているようで、がやがやトイレに入るのは無作法に思われましたが、ガイドが売店に用ありげに入って行き、その隙に全員でこっそり、クラシックなトイレを借りました。
ヨーロッパの小さなホテルなどはロビーも狭く、少人数でもトイレを借りるのは至難の業ですが、ビジネスホテルなどではロビーのトイレに鍵を掛けているところも沢山あります。宿泊者だけに鍵を貸してくれます。
お茶の一杯も飲めばOKなのですが、時間的な制約もあるし、トイレはタダだと思っている日本の観光客は、お金を払うことにすごい抵抗があるようですね。やっとトイレがあるところへ辿り着いたのに、有料と聞いたら「行かない」という人もいて、あんなに急かしたのにと驚いたこともありました。
レストランや日本人に慣れている土産物屋に寄ったらすかさずトイレに行く、これは大事ですね。移動中は高速道路のサービスエリア以外ではトイレは期待できませんから。
最近はサービスエリアのトイレはほとんど(全部ではありません)無料になりましたし、併設されている売店での買い物が楽しみな人もいます。地元の特産品なども売っていて、そこらのスーパーよりよほど品揃えがしゃれています。
団体旅行ではトイレ休憩を口実に運転手やガイドが懇意にしている土産物屋にバスを停めてしまうこともありますが、ここで買ったものは行程に含まれる土産物屋の品物と違い、苦情があっても旅行会社は受け付けませんので高いものを買うときは注意が必要です。
最近では男性トイレより女性トイレのほうが数が多いところも増えましたが、以前北欧へ行った時にはメンバーのほとんどが女性で、男性用がとっくに空いても女性用はまだ長蛇の列だったことがありました。
出発時間も迫っており男性用に入ってもいいかしら?と訊かれたので、それでは私が外で番をしていましょう、ということになりました。
するとすぐに老夫婦が近付いて来、男性がドアに手を掛けるので「お使いになるのでしたらちょっとお待ちください」と言ったのですが、女性が入るのを見ていたらしく、なおもドアをガタガタ鳴らし、「ここは男性用だ、女を入れるとは、何事だ、何と言う女だ、お前は」と二人してドアと私を揺するのです。
中の女性は慌てて出て来、その後は長蛇の列の女性用だけで済ませましたが、その男性は別にトイレに用があったわけではありませんでした。「決まりごと」を守らない私達を怒りに来たのでした。あの恐ろしい剣幕、全員にとってこの北欧旅行の最大の思い出でした。
この人たちはドイツ人でしたが、ドイツ人、イギリス人など「きっちりしている」と評判の国の人の中には、他人もきっちりしないと気が済まない、他人のズボラが許せないという「ウルトラ・きっちりさんで、しかもお節介やき」が時々いて、何でもナアナアで済ましている私などは、ついていけないことがあります。
しかし時には、やはりズボラはいかん、ということもあります。もうじき90歳というオバアチャンとオーストラリアへ行った時のこと、トイレの数が少なくとても混んでいたので、老齢も障害のうち、なんて自分達に言い訳をしてオバアチャンを身障者用トイレに入れてしまいました。すると直後に本当の障害者、車椅子の人が来てしまったのです。オバアチャンは動作も鈍くなっているのか、私は焦るのですがなかなか出てきません。やっと出てきたとき、顔を見て理解してくれたかどうか、それは分かりませんが、私は身が細る思いでした。それ以後私はどんなに混んでいても障害者用トイレは使わないようにしています。
私達にとって憧れの地であるヨーロッパは一見華やかですが、西洋人の多くは大変な節約家で、語学留学のホームステイなどで水を使いすぎて怒られた経験のある方もあるでしょう。食器は洗浄せずに洗剤を付けて拭き取るだけ、シャワーの水を途中で止められたなんてこともある世界です、水も細く出るように必死で工夫しているのに、買い物もしない大勢の他人にジャンジャン水を流されトイレットペーパーは使い放題なんて、とても許せないのでしょう。20円や30円のチップを取るのは当たり前、ということです。
この点、団体で行動するときにはやはり日本人が経営しているお店を頼りにしてしまいます。リベートがあるのではないかと問題視されることもある海外土産物店ですが、泊まっているホテル以外で唯一ゆっくりトイレが使える場所と言えるのではないでしょうか。
日本人のトイレの間隔が短いのも、添乗員がトイレ探しに奔走する原因の一つでしょう。
国内では大体一時間半に一度、最大でも二時間毎にはトイレ休憩を入れますが、以前フランスで、高速道路を走り続けて3時間以上トイレが無かったことがありました。雨の降る寒い日で心配しましたが、サービスエリアが全然無いのですから仕方ありません。真っ青になっている人もありました。
辿り着いたサービスエリアのトイレは、連続して到着したバス3台の日本人で大混雑でした。
ヨーロッパのたいていの観光バスにはトイレが付いていますが、大元の鍵は運転席から操作します。このトイレの掃除は汚物の処理まで運転手の仕事ですから、使わせたくないのは当然でしょう。
日本人のガイドや添乗員は運転手の機嫌を損ねると後が面倒なので、「高速走行中は危険なので」と言って使わせないことが多いのですが、一度だけオランダで、ガイドも現地人だったのですが、自由に使っていいという運転手に会いました。確かに車体の底が低いし急停車の可能性もあり、走行中のトイレ使用は大変危険です。そんなことにならないよう、備えたいものです。
観光バスの車体は大抵その運転手が専門に使っているので、トイレだけでなく車内の掃除も運転手の仕事です。車内にアイスクリームを持ち込んで垂らしたり、煎餅のかすを撒き散らせば掃除が大変なので、はっきり断られたり怒られたりします。でもまあ最近はお行儀が悪い中国人がヨーロッパ旅行に大勢進出し、食べ物のゴミだけでなくツバまで床に落とすらしく、日本人客は行儀が良くて好き、という運転手が増えています。
トイレを使っていいと言ってくれた運転手から、「臭いが残るので車内で魚を食べないでくれ」と言われて、実は最後部の席で燻製ニシンを食べていたのですが、日本人の誰も臭いに気がつかないのにと驚いたこともありました。
トイレが少ないということは、外国の人は膀胱が大きいのでしょうか。老人が多いツアーではトイレで滞っている外国人グループも時たま見かけますが、体の構造が違うのだろうと思います。
ドイツのビアホールでは皆ビールをガブガブ飲むのですが、トイレに行ってみると行列しているのは日本人だけです。日本人よりよほど大量に飲んだ西洋人が平気なのは何故?と、いつも思います。
そもそも昔はトイレというものが無かった地域、普通の人は夏は犬や猫と同じように物陰で用を足していました。身分の高い人や寒い冬には室内で一種の「おまる」を使っていました。アメリカの開拓時代の博物館などへ行くと、寝室の片隅に大きな洗面器のようなものが置いてあるのをご覧になった方も多いと思います。
その汚物を多くの人たちは窓から直接投げ捨てていました。ヨーロッパの石畳の道の多くは両側から中央へ向かって下がる傾斜がついていて、現在では雨が道の真中を流れていくようになっていますが、昔は朝になると水で汚物を流していました、現在でもどこかの大都市でやっているように。
中世のお城に行くと「ここがトイレでした」と言って丸い穴のあいた一角を示されることがあります。穴だけで底が無く、その下は川だったり建物の裏手の草むらだったりすることが多いのですが、時には正門の真上にあって、これは敵が攻めてきたとき、汚物も武器の一種として頭上から落としたということです。
「小」の方は染物の触媒としてローマ時代から使われていたそうですから、単純に路上に放ってばかりでもなかったのですね。
私自身はあまりトイレには行かない方ですが、一人で行かれない!?なんて可愛い人たちについてあちこちのトイレに行く間に、ホント色々なことがあって興味を感じ、最近では写真を撮ったりメモをしたりしています。
私が初めて行った外国は環太平洋、今ではこんな行程は難しいと思いますが東京〜フィリピン〜ニューギニア〜オーストラリア〜ニュージーランド〜フィジー〜ハワイ〜東京というもので、もう30年以上も前、約一ヶ月かかりました。
この旅で初めて洋式バスルームを体験した私ですが、腰まである長髪だったので慣れない風呂場で髪を洗うのに苦労、長くバスルームにいるとトイレまでが湿ってくるのに驚きました。また世界中には「風呂桶なし」シャワーだけで過ごしている人がいるということを知っで驚きました。
沢山の公衆トイレにも行きましたが、ブリスベンの海辺では床が完全に乾燥した清潔なトイレに遭遇、荷物を広げて荷造りするのに、神経質な私が何の抵抗も感じないほどきれいだったのが印象的でした。その頃の日本の公衆トイレといったら暗くて臭くてジメジメというのが当たり前でしたから。
次に行ったのはカナダ・アメリカでした。シアトル空港で初めて「有料トイレ」を体験しました。ここはドアの穴にコインを入れると鍵が開く仕掛けになっていましたが、中からは自由に開くので、先に入っていた人がドアを開けたまま押さえて「早く次の人、タダで入りなさい」と誘っていました。アメリカ人だって誰もいないトイレを使うのにお金を払うのには抵抗があったのでしょう。
このように番人が居ない有料トイレの場合、ピッタリの額のコインが無いと絶対に入れないので大変です。番人が居るところでも金額はたいてい決まっていて、おつりをくれます。
現在はユーロになったので国境を越えてもチップのお金に苦労することはありませんが、以前東欧へ行った時には、両替を何度もしたのでコインが何種類もあって、しかも残っている一国分のコインではトイレに足りない、ということもありました。トイレの壁に価格をコインの図で示している所もありましたが、もう訳が分からなくなって持っているコインを全部出したら、他の国のも混ぜて足りるように取っていきました。
先のシアトルのトイレは個室を囲む壁やドアは座った時にちょうどお尻から頭まで位が隠れるだけしか無く、上下は素通しでした。中に人が待って(!)いたりする危険があるから隠すのは最小限にとのことでしたが、なるほど治安が悪いんだなと感心しました。使う人たちはそんなことは意識していないようで、座ったまま隣の個室と大声で話したり、下から荷物のやり取りをしていました。
この形のトイレはハリソン・フォード主演の映画「目撃者」で、追っ手から逃れるのに便器の上に隠れ、追う方はドア下の隙間をチェックするという場面があったのを覚えておられる方もあるでしょう。
アメリカでは公衆トイレは危険な場所の一つらしく、娘達が幼かった時、子供達だけでトイレに行かせようとして現地の知人に注意されたことがありました。女性用トイレなのだから大丈夫と思ったのですが、盗難、暴力、刃傷沙汰、性的いたずらなど何でもありのようです。
ヨーロッパではフランスが好きですが、町の路上にあるジャバラに囲まれた公衆トイレ、あれだけは苦手です。
緑のランプが点いているのを確認してコインを入れるとしずしずとドアが開きます。用が済んでも流すレバーはありませんからそのまま出てドアを閉めると、中で自動洗浄、その間ランプは赤で、洗浄が終わるとランプが緑になります。次の人が待っている時などは、本当に綺麗になっているかちょっと心配です。また床は濡れたままのことが多いですね。
私は閉所恐怖症なので、自動的にドアが閉まるというのは恐ろしくて、フランスへは何度も行きましたが、一度しか使ったことはありません。
使用中には中から開けない限り絶対に開かないのですが、それを良いことにホームレスの人などが冷暖房完備の個室に篭ることがあったり、中で失神する人だっているということで、現在では20分以上内部で動きが無い場合には自動的にドアが開いてしまうとのことです。
道の真中に置いてあるジャバラ型の他、建物にくっついたり独立した小屋のような公衆トイレもあります。外見がショボくても、コインを入れる場所の電気が点いていれば大体大丈夫のようです。
フランスではドゴール空港のトイレだって時には思いがけないほど汚れていることがあり、割と要注意の国です。ラテン系といわれる国々では、前述の「きっちりさん」とは違い、ゴミが散らかっていても無関心な人が多く、随分高級な場所でもトイレ関係が整備されていないところも結構あります。
友達とノルマンディー地方を廻った時、印象派の絵で有名なオンフルールへ行きました。港の近くのトイレに行くと、便器には上蓋だけでなく、馬蹄形の中蓋も無いのです。初めて見た私はどうしても座ることが出来ず、長い間トイレを我慢するハメになりましたが、同行した人たちは「山へ行けばこんなの当たり前」と使っていました。
この近くのドービルでは、駅のトイレに入った人が水洗のスイッチを押すと、便器の中だけでなく、床にも大量の石鹸水が流れ出し洪水のようになりました。幸い荷物も無く足にはサンダルを履いていたので事なきを得ましたが、駅のことですから広い個室内に荷物を持ち込んで、手の届かない所に置いて居たりしたら大変でした。
フランスでも水の節約は大変なもので、初めてベルサイユ宮殿へ行った時には運河やトリアノンも見ようと入り口からかなり離れた場所へ行ったのですが、数の少ないトイレの一つでは使用料として、「ひと押し○○フラン」と書いてあるところもあり笑ってしまいました。
南部の古代ローマ時代の遺跡などを観光していると、トイレは古代ローマの方が良かったのではないかと思うくらい、なんともショボイ公衆トイレに遭遇します。以前フランス観光局のセミナーがあった時に、フランスからわざわざやって来た観光局関係者に公衆トイレを何とかして欲しいと話し掛けようとしたら、こんなパーティーの会場でそんな話は止めてくれと日本側の係員に制止されてしまいました。現地の業者がセットした大名視察旅行ばかりしている観光局関係者には、トイレで悪戦苦闘している現場の気持ちが分からないのでしょう。
ドイツではハイデルベルグ城のトイレで添乗員だからと無料にしてもらったのが印象的でした。フランスのモンサンミシェルでも添乗員の名札をつけている人は無料、やはりトイレを提供する側にとって、トイレを使われるということは「出費」の一つであると痛感します。
ハイデルベルグ城のトイレは白衣を着たオバチャンが中を造花やリボンで綺麗に飾り立てていましたが、考えてみれば自分の職場ですものね。でも一日中こんな所で働くのって、私には何だか気の毒に思えました。それは私にとってやはり、トイレは暗くて汚いという昔の日本の公衆トイレへの恐怖が残っているからでしょう。
ちょっと意外なのですが、ドイツはトイレだけでなくATMなども含めて、街中にある「自動○○」が壊れていることが多く、工業国なのにと、特にトイレはアテにして行って使用禁止になっていたりすると本当に恨めしくなります。ATMは建物に入るのにもカードや暗証番号が必要で、慣れないと使えず、一文無しの恐怖も味わいました。
ロマンチック街道の途中ネルトリンゲンはあちこちにちゃんと公衆トイレがあるのですが、門の陰にあるのは以前は鍵が掛かっていて使えませんでした。最近行ったら使えるようにはなっていましたが、昔の日本の公衆トイレのような暗さで、私はパスしました。
ネルトリンゲンは団体バスがトイレ休憩に寄ることが多いのですが、駐車場ではバスが到着するとトイレの番人も登場します。ここは駐車場のすぐ脇にマクドナルドもあり、日本でしたら絶好の無料トイレですが、相手も相当警戒しています。
ネルトリンゲンには300段余りの階段を上る塔があるのですが、ここの途中にもトイレがあります。無料できれいですが、相当上らなければ使えません。
フランス、ドイツの公衆トイレは広場の地下に設置されているものも多くあります。
閉所恐怖症の私は「地下」自体が苦手ですが、入り口付近に古新聞などが散乱していると尚更入りにくいですね。案外中は綺麗ですが、夜などは治安の問題もあり利用しない方が良いでしょう。
トイレだけではなくベンチや街灯などにも言えることですが、フランスでは思いがけないデザインに出会って、さすがに芸術の国だなぁと感心することがしばしばあります。それに比べるとドイツでは同じようなデザインに出会うことが多い気がしますが、現地在住の人に聞きましたら、ドイツでは全部一箇所で作って配ることが多いけれど、フランスでは「こんな機能を持ったもの」というコンセプトだけを指示して、各地で独自に作らせることが多いので、各地の想像力で独創的なものになり勝ちとのことでした。
オランダではピクニックの最中、真っ暗なトイレも経験しました。小さなアイスクリーム屋さんの裏にあるトイレだったのですが、窓が全く無く、しかも電灯が無いので、ドアを閉めると本当に何も見えません。
最初に入った人は外で待っている人に遠慮して手探りで用を足したようですが、次の人からはドアを薄く開けて使いました。
ベルギーではまず空港の「超」厳重なトイレのドアが印象的です。高い天井までフルサイズの鉄のドアですので、鍵を閉めた中で倒れたりしたら、どうやって救われるのかしらといつも心配です。アメリカの素通しドアと対極にあるものです。
地下にある大きなトイレスペースは屋外のものが多いのですが、ベルギー・アントワープにはレストランの地下で広大なスペースを取っているところがあります。
ここのトイレは最近ヨーロッパで多く見られる、水洗のレバーを押すと便器も掃除してくれる、というもので、最初は誰でも驚くようです。お尻のちょうど後ろに当たる辺りに「タワシ」のようなものが付いていて、中蓋がその下をくるくる廻って洗われるのです。
この他に手を洗うところも、一番左が洗剤、次が水、次が乾燥の空気、と日本でも最近出回ってきましたが、こでが頑丈なステンレスのユニットになったものが増えてきています。こんなところはあまり掃除をしないのでしょうか、汚れているのが多いですね。
ヨーロッパのトイレは私が知る他の地域に比べて、まあ安全、ですが、勿論全域が綺麗というわけではありません。先述のオンフルールとかオランダとか、日本より大分劣るワ、という場所も随分あります。
私がトイレの取材をしていると言ったらイギリスで男性用のトイレに「招かれた」ことがありました。その方曰く「中国の男性トイレと同じのがある」とのことで、中国の女性トイレについては詳しく知っていた私も男性のは初めてでしたが、(汚れた)ステンレスがずっと長く続いたものでした。
また列車の中のトイレ、というのも一部には恐ろしいものがあり、ついて来て欲しいと頼まれることもしばしばです。スイスで乗った列車のトイレはドアの開け閉めが信号のようになっていて、緑の時には中に入って良いようですが、外の壁に三色のボタンが並んでいるさまが初めて見るもので恐ろしかったのでしょう、終わるまで待っていてと頼まれました。
オーストラリアで乗った大陸横断鉄道、個室にはバスルームが付いていましたが、あの大柄な人たちがどうやってこの中でシャワーを浴びることが出来るのだろうと疑問に思うほどの狭さでした。
トイレももちろん付いていましたが、折りたたみ式。普通水が溜まっている部分を壁から剥がすようにして下ろして腰掛けて使い、終わるとまた壁に立てかけるように戻すのですが、最初は水が入っていないので、まず水を流して溜め、用を足した後再度水を流してから立てかけるのですが、立てるわけですから使用後の水が外に出るのではないかと本当に恐ろしく感じました。あの高価な乗車賃を考えると、日本では絶対にありえない形のトイレでしたね。
続きcontinue
このページの最初へ戻るreturn to the biginning